最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 ギリギリになってもいらっしゃらなかったら、さすがに携帯に連絡した方がいいだろうか。ああでも社長のことだから、他の仕事があって遅れてくるのかもしれないし、だとしたらまた余計な事って思われるかもしれないし……。

 時計とにらめっこしてそわそわしながら待っていると、会議開始の五分前、もう待てないと電話を取り上げたところでようやく扉が開いた。

「社長!」

 思わず叫んで立ち上がった私を鬱陶しそうに一瞥する、その顔色が昨日より更に悪く見えて、隣に駆け寄る。そんな私を無視して社長室の扉に手をかけて開けようとした時に、社長の身体がぐらりと傾いだ。慌てて支えたその身体から感じる熱に、息をのむ。

 ――熱い。

 明らかに普通の熱さじゃない。昨日感じた不安が見事に的中したのだと、すぐに悟った。
 
 社長はすぐに体勢を立て直すと、何もなかったかのように部屋に入り、資料を手に取って出ていこうとする。

「会議に出るおつもりですか!?」
「当たり前だろ」
「ですが、熱があるのでは」
「ない」

 絶対嘘だ!

「きちんと測りましたか? 体温計をお持ちするので」
「ないって言ってるだろう」
「ですが」
「うるさい」

 言い募る私をひと睨みして黙らせる。

「邪魔をするな。命令だ」

 そう一言言い置いて、そのまま会議に行ってしまった。
 
 呆然とその姿を見送って、一呼吸おいて我に返ると、すぐに怒りが沸き起こる。なにあれ、あの横柄な言い方。心配してる人間に、うるさいってなんなのよ!
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