最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
社長室の隣に設けられたデスクでメールチェックをしていると、少し不機嫌な表情の上司が姿を現した。
「おはようございます。お疲れですか?」
「少し寝不足」
上司の後に続いて入室する。彼はどさりと椅子に座ると、小さなあくびを一つ漏らした。
「本日のご予定ですが、笹川興産の篠井社長とご会合が……」
パソコンに向かい始めた上司にスケジュールを伝えながら、こっそりと様子を窺う。昨日は恒例のパーティーに婚約者とともに出席していたはずだ。パーティー自体は早々に終了したはずだけど、そのあとは婚約者とどう過ごしたのだろうか。
……想像しかけた場面は脳内ですぐに打ち消した。
やめよう。今日は絶対に、笑顔でいると決めたのだから。
「……以上です。それと」
確認事項を伝え終えると、一度言葉を切って姿勢を正した。
上司がパソコンから顔を上げて、私を見る。
「本日をもって、私の勤務は終了になります」
彼の表情が見る間に驚きに染められる。
「年内いっぱいじゃなかったのか?」
「有給消化に当てさせていただきました。重役総会も無事終了しましたし、特に問題はないかと」
「だけど」
咄嗟に何かを言いかけて、でもすぐに黙り込む。続く言葉を探すように、少しの間が空いた。
「……わかった」
何を言っても無駄だと思ったのか、すぐに了承の返事が返る。
それとも、何を言う資格もないと、悟ったのか。