最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

「後任は橘(たちばな)が務める予定です。引継ぎは……」
「わかった。任せる。もう下がっていい」

 私の言葉を遮るようにそう言って、パソコンに視線を戻してしまった。それから私の存在など忘れてしまったかのようにキーボードを叩き続ける横顔を、少しの間、目に焼き付ける。

 そっけない態度で仕事をしているふりをして、私が部屋の中にいるときはいつも、こちらを気にしていてくれた。
 さりげなくかけてくれる言葉がいつも嬉しくて、ふとした時に見せてくれる笑顔にドキドキして、こっちを見てくれないかな、なんて思いながら視線を向けたときに目が合ったりすると、その日一日がすごくハッピーになったりして。

 でももう、そんな姿を見るのも、今日が最後。

「今までお世話になりました。……どうかお身体大切に、社長のご成功をお祈りしております」

 目を閉じて祈りながら、こちらを見ずにただああ、とだけ返事をした上司に向かって、深々と一礼した。どうかこの人が納得のいく人生を歩めますように。無茶して体を壊さないように、心を壊さないように。

 どうか、幸せを掴んでくれますように。
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