最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
「社長っ」
「手」
「はっ?」
「撫でろ。車の中でやってたみたいに」
裏返る私の声とは裏腹に簡潔に指示を出し、私の手を引っ張っていく。
嫌とも言えずに髪を撫でると、満足したように目を閉じて、息を吐いた。
これはなんなんだろう、私は何をさせられてるんだろう。これって秘書の仕事か? 一歩間違えればセクハラじゃないのか? こんな社長でも弱ってると誰かに甘えたくなるのかな、でも甘えさせてくれる人なんて他に星の数ほどいるだろうに。ああでも変に弱ってるところを見せると付け込まれるのか、だったら私くらいがちょうどいいか。私なんぞが社長のご尊顔を撫でくれまわせるなんぞむしろ光栄の極み……。
思考がよくわからない方向まで回ったところで社長が声を発した。
「飯。うまかった。懐かしい味がした」
「よかったです」
素直に褒められると大いに落ち着かない。心の中がむずむずする。
「お前の手は冷たいな」
「よく言われます」
「気持ちいい」
薄く笑みまで浮かべてそんなことを言われてしまったら、もう降参だった。こうなったらできる限り満足していただこうと、より丁寧に手を動かす。ゆっくりと、髪の間を梳いて、何度も往復する。弟にしていたように、可能な限り愛情も込めて。
「俺が、寝たら……帰っていい……」
また社長がうつらうつらしだしたようだ。
くつろいで安らいでいる、その様子を眺めながら、私の心の中にも温かな気持ちが満ちていくような気がした。