最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
すぐにお持ちしたところ、真彦社長との会談で余程消耗したのか、座りもせずデスクに寄りかかって窓の外をぼうっと見ていた。
「お疲れ、ですね」
湯飲みを渡すと、立ったまま口をつけた。こくりと一口飲み下して、深い息を吐く。
「疲れるよなあ。あの人と話すのは」
珍しく砕けた口調だった。最近は心なしか私に対する距離の取り方が縮まってきて、すこしずつだけど心を許してくれている気がする。
「的確なことしか言わないから逃げ場がない。確実に心を蝕んでくる」
「社長にそっくりですね」
「俺はそこまでひどくないだろ」
苦笑いを浮かべながら、ゆっくりとお茶を飲む。
窓の外はそろそろ夕日が沈む頃、高層ビル街の中に溶け込むように紅く滲んでいく。
なんとなくその場に残って、その様子を一緒に眺めていると、社長が私に問いかけてきた。
「この会社の、強みは何だと思う?」
「長い歴史の中で培ってきた豊富な知識、技術、経験。またその歴史によって育まれた絶対的な信頼感、知名度」
「弱みは?」
「歴史に固執するあまり目線が常に一方方向なこと。新規開発に技術が生かし切れておらず、時代に取り残されている」
何度も何度も繰り返し考えているせいで、すらすらと淀みなく口から溢れてくる。
社長が就任してから、ずっと取り組み続けていること。私の意見を求められたのは初めてだけど、根本からブランディングをやり直そうと模索していることは誰から見ても明らかだった。
このままズルズルと、昔から続けてきたことをやり続けるだけじゃ必ず破綻する。何を捨てて、何を育てるか。特化していくべきものは。