最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

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 数日後、何も知らない哀れな真木は、臨時収入が入ったから奢って差し上げようという私の甘言に即飛びつき、ほくほく顔でやってきた。
 座敷がいくつも襖で区切られていて、それぞれの席は個室のようになっているけど、襖を開け放ってしまえば一続きになる造りの居酒屋で、隣の話声なんかは丸聞こえだ。
 酔っぱらいの親父の愚痴をBGMに手羽先を喰らうという、私も真木もお気に入りの店。こんなところに社長を連れてくるのは気が引けたけど、本人は特に気にもせず、先に隣の席に入って焼酎片手にスタンバっている。

 ビールで乾杯して、しばらくは最近の合コンの成果などどうでもいいことを話しつつ、割とすぐに仕事の愚痴になった。早めのピッチで酒を勧めつつ聞き役に徹する。

「社長もなあ、話を聞いてたら頑張ってはくれてると思うけど、やっぱいまいち頼りないよなあ」

 私の仕事の話から、社長の話になってしまった。
 おっと真木、今ここで社長の批判はやめといた方が。

「爺どもになかなかガツンと言えないんだよなあ。あの若さだから仕方ないんだろうけど、もどかしいってみんな言ってる。俺に社長の権限があったらなあ」

 そこ、そこだよ真木君。

「例えば真木が社長だったらまず何する?」

 手羽先片手にしばらく考え込んだ真木は、名案を思い付いた、というように骨を振り上げる。

「営業四課長と三課長をトレードする」
「トレード? 三課長を左遷するんじゃなくて?」
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