最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
冷酷社長の溺愛
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水面下に、あるいは公に、役員から一平社員まで幅広く話を聞き、交渉を重ね熟考を重ね、何度も話し合いを重ね、ようやく改革案が形になったのは、もう年の瀬が見えてきた頃だった。
例年十二月に開かれる年に一回の大規模な重役総会でその案を発表し、承認を得られれば、次年度に向けて動き出す。反発が極力出ないようにゆっくりと進めていく方針だけど、まずは一歩、大きな転換期に向けて歩き出すことになる。
そして今日。とうとう迎えた会議当日。
資料は完璧、突っ込まれると思われるところはみんなで何度も確認して潰してある。なによりMBAを取った社長のプレゼン術はその辺の古臭い重役どもを黙らせるだけの説得力がある。大丈夫、ここまでしっかり準備してきたんだから、滞りなく終わるはずだ。
会議には神崎室長が同行するので、私は社でお留守番だ。悔しい気もするけど、室長がいた方が私の何倍も役に立つのは自明の理なので、私情はもちろん飲み込む。
今日の社長は三つ揃えのビスポーク、いつにも増して気合の入った格好で恐ろしく美しかったけど、その表情は意外なほど落ち着いていた。いっそ気楽とも言えるほど。
出発する前にお茶をご所望だったので、あえていつも通りのほうじ茶をお持ちする。
「あまり動じてらっしゃらないですね」
そう声をかけると、社長は楽し気に口角を上げた。
「そうか? これでも昨日はほとんど寝てないんだが」
「全くそう見えません」
「外面を取り繕うのは得意でね」
くくっと笑ってゆっくりお茶を飲み干した。ふーっと大きく息を吐いたところで、神崎室長が迎えに来る。