最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 鞄を手に取り歩き出した社長を、思わず呼び止める。


「社長」


 振り向いた社長に、なにか気の利いた言葉をと思ったけど、何も浮かんでこなかった。
 頑張ってくださいも、成功をお祈りしますも、全てが陳腐で、伝えたいことは伝わらない気がして。


「お待ちしております」


 結局出てきたのはこの言葉だった。
 ここで、私はあなたの帰りを待っています、と。


「いってらっしゃいませ」


 深々と頭を下げて、社長を見送る。社長はそのまま部屋を出ていく、はずだった。


 足音がこちらに向かってきた。
 視界に社長の靴先が見えて、なんだろうと顔を上げると、そのままぐんぐん近づいてきて。


 首裏に社長の手がかかる。
 ぐっと力がこもって引き寄せられると、鼻と鼻がぶつかる距離に社長のきれいな顔があって。


 ふわりと唇が重なった。
 軽く押し付けるだけの、優しいキス。


 すぐに柔らかな感触は離れていって、驚いて目を閉じる余裕もない私の目の前に、またもや社長の顔があって。


「いってくる」


 少し目を細めて微笑むその表情は、見たこともないほど甘かった。

 そのままスタスタと部屋を出ていってしまった社長を呆然と見送りながら、扉が閉まった瞬間、よろり、と倒れた。足に力が入らなくて、ずるずると壁にもたれて座り込む。

 なん、なんだ、今のは。

 人差し指を唇に当てて、さっきの感触を反芻する。温かくて、とても気持ちよくて……。

 キス、された、よね?

 認識した途端に心臓が一気に跳ねた。どっくんどっくん波打って、どっと顔に血が上る。


 社長が、私に、キスをした。
 なんで? なんで?? 一体どういうつもり?!
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