最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
「すみません、見逃してました」
「いや、俺も確認したのに気づかなかった。今日はいつもより慎重にいこう」
「はい……」
落ち着こうとふーっと息を吐いた、その時、なんだか妙に周りが静かなのが気になった。
資料から目を上げると、秘書室にいた人間が全員、手を止めてこちらを見ている。え、なに、と思った瞬間、さっきの東吾の声が脳裏に蘇る。
そういえば、今、思いっきり名前で呼んだ……?
はっとして東吾を見ると、彼もこの不自然な沈黙で我に返ったのか、あ、と間抜けな声を出して私と顔を見合わせる。
もう一度秘書室の面々を見渡すと、さっきは気が付かなかった、生温ーい空気を感じる。
あれ、これは、ちょっとまずいのでは。
「あー、えー、あれ?」
ごまかす言い訳も思いつかず、にわかに焦る私を横目で見て、東吾はコホン、と一つ咳払いをした。その場にいる全員の視線が東吾に向けられる。
「おそらく、君たちが想像していることは合っている。だが、私は公私混同するつもりは一切ない。もし何か異議がある者は、私に直接言って欲しい。……が、できれば各々胸の内に秘めて置いてもらえると有難い」
それだけ言うと、じゃあ後よろしく、とさっさと部屋を出ていってしまった。取り残された私は、一身に視線を集めて、いたたまれないことこの上ない。
秘書課最年長の美智さんが近づいてきて、私の両肩に手を置いた。
「資料。急いでるんでしょ。頑張って」
「はい……」
いいよいいよ、何もかもわかってるから。
全てお見通しと言わんばかりににいっと目を細めて、ぽんぽんと肩を叩いて立ち去って行った。
そのあとも部屋にいる間中、私はぬるい視線にさらされ続けたことは言うまでもない。