最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 会社のことを考えれば、梶浦頭取と誼を結べたことは大きな財産と言えるだろう。東京国際銀行と言えば、大手中の大手、梶浦頭取はやり手と評判だ。うちの会社だけではなく、上條グループ全体にとっても絶大な意味を持つはず。
 
 そして、東吾本人にとってもまた、雅さんの存在は大きい。

 社の中には、まだ東吾に反発する人も多い。
 若さを理由に頭ごなしに否定してくる人、革新的な考えについてこれず、無意味に抗う人。ゆっくりと進めてはいるけれど、本格的な改革を前に問題はまだ山積みだ。

 そんな中で、梶浦頭取の後ろ盾を得られれば、格段に仕事がやりやすくなるのは明らかな事実で。
 
 正直、日々一緒に過ごすことに満足していて、将来的なことなんてなにも考えていなかった。プライベートの東吾はあまりにも庶民的すぎるので、上條の御曹司であることを忘れてしまいそうになる。それでも紛れもなくこの人は上條本家の次男で、いずれはグループの中枢を担うことになる、責任ある立場の人間なのだ。

 ただの秘書と大銀行頭取の娘と、どちらが相応しいかなんて火を見るより明らか。身分の差、なんて今時ナンセンスな考え方だと思うけど、東吾の住む世界はそんな言葉が当たり前に存在するのだ。もしこのまま東吾と付き合い続けていくのなら、いずれは直面する問題で。

 そんなこと、今はまだ考えずに、ただの恋人同士でいたい。
 真剣に考えてしまったら――終わりが見えてきてしまいそうで、怖い。
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