最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 そんな鬱屈した思考が透けて見えたのか、東吾があえて明るく笑う。

「社長とか上條とか、めんどくせえだけだよなあ」

 内情を知らなければ傲慢にも思えるセリフだけど、今の私も心底そう思う。

「真木みたいな立場が羨ましい。替わってくれないかな」
「真木?」

 唐突に出てきた名前に驚いて東吾の顔を見上げると、うん、と子供のように頷く。

「本当は俺、研究者になりたかったんだ。母親が病気で苦しそうなの見て、なんとかしてやりたいなあっていつも思ってて。新薬の開発がしたくて、大学もそっちに進んで」

「経営を勉強したんじゃなかったの?」

「それは留学してから。俺の専攻は化学だよ。専門的な知識を持っててもいいだろうってことで、卒業後に留学することを条件に、理系に進めたんだ。そのまま仕事も開発に回りたかったんだけど、それは流石に許してもらえなかった」

 それは知らなかった。経営者として優秀過ぎて、そのイメージしか持ってなかった。

「真木と話してるとさ、学生時代を思い出すんだ。目の前の作業に没頭して、ただ自分の思考にだけ集中してると、ふっと何かが見えてくる感じ。楽しかったなあって」

 多くの人間を相手にして、常に神経をすり減らしている今とは、全く違う。この人は、本当は他人と向き合うことがそんなには得意ではないのかもしれない、とふと思った。
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