"あやまち"からはじめませんか?


「そんなわけにはいかないわ、現場監督だってしなきゃいけないし……」

「今、須藤に頼みましたよ」

「そしたら須藤くんが休憩に回ってくれたらいいわ、後は私が……」


すると少し沈黙した後、宇佐美くんは言った。


「気づいてないと思ってるんですか」

「なに?」

振り返れば、すぐそこに宇佐美くんがいる。


「本当はさっき、怖かったんでしょう?」

「なに言って……」


宇佐美くんは私の手をさっと取る。

持ち上げられた手は小さく震えていた。


「震えるくらい怖いのに、必死にかくして大丈夫なフリをしてたこと

俺は知ってます」


「だ、大丈夫だから……放して」


宇佐美くんから目を逸らす。


「俺には今の結衣さんの状況が大丈夫に見えません」


そんなこと言われたら、大丈夫じゃなかったんだって実感してしまう。


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