"あやまち"からはじめませんか?


「ちょっ、宇佐美くん」


宇佐美くんは一向に手を放そうとしない。

それどころかぎゅうっと私を包み込んでくる。

温かくて、いい匂いがしてドキドキが強く鳴りびいて止まらない。


「覚えてるって顔してる」

ぱちりと彼と目が合う。


忘れるわけがない。

あの日、私は自分から宇佐美くんにキスをした。
それは自分のしたあやまちを埋める代償のキス。

でも今は——。


彼の顔を見た瞬間、そっと宇佐美くんの顔が近づいてくる。

近づいてくる彼の唇。
ダメなのに、なんだか嫌な気がしないのはなんでだろう。


加速する心臓。
受け入れるように目をつぶった時。

変な感触が唇に触れた。


「自分のこと好きな男にそんな隙、見せたらダメですよ」

えっ。

目を開くと宇佐美くんは人差し指を私の唇においていた。


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