死席簿〜返事をしなければ即、死亡
いや、正確にいえばもう【水口智花】じゃない。
ついこの間まで親しんできた【水口】という苗字。
それが変わったんだ。
私はずっと母子家庭で育った。
お父さんは幼い頃に亡くなったらしく、写真でしか記憶がない。お母さんは私を育てるために、昼夜問わず働いていた。そんなお母さんが再婚するという。
はじめは、なんだか裏切られた気がしたし、新しいお父さんにも馴染めなかった。でも__お母さんの苦労は分かっているつもり。ただ、素直になれないたけで。
私だけが反抗期みたいにふて腐れたまま、正式に籍を入れたのは数日前のこと。
実はまだ「おめでとう」と言っていない。
けれど、今なら心から言えそうな気がする。
私が助かったのも、苗字が変わったお陰だ。
先生はまだそのことを知らない。書類は提出したが、クラスメイトが次々に亡くなって、それどころじゃなかったんだろう。
私が水口じゃないことを知っているのは、わずか数名の友達だけ。
その数名も___死んでしまった。
だから、みんなを助けるために私が名乗り出たというわけだ。
1人だけ助かっても、寝覚めが悪いし。
晴れて学校から出られたら、お母さんと__お父さんに「おめでとう」を言おう。
私は職員室の前を通り過ぎた。