懲らしめて差し上げますっ!~じゃじゃ馬王女の下克上日記~
この辺りは牧草地で、茶色の毛をした牛が草を食んでいるのが見える。

きっとそれほど遠くない場所に、牛飼いの家もあるだろう。

それでグリゴリーが、「民家を探してきます」と道を外れ、牧草地に踏み入ろうとしたのだが、ラナに引き止められた。


「ねぇ、野宿しない? 今日は雲がないから星がよく見えそうよ」


王都に帰れば、ラナに自由はなく、生涯において二度と野宿することはないだろう。

今しかできないことをやっておきたいと、彼女は考えているようだ。

その気持ちは口に出さずとも伝わったようで、皆が頷いてくれた。


一行が野営場所に選んだのは、牧草地から北東に三十分ほど歩いた、湖のほとりである。

半月形をした大きな湖は、周囲を森に囲まれ、真ん中に小島が浮かんでいる。

静かで水は澄み渡り、夕暮れの光を映した湖面はなんとも美しい。


「素敵……」

この景色を瞳に焼き付けようとするように、ラナはじっと見入っている。

そんな彼女を気にしつつ、他の四人はテントを設営したり、薪を集めたりと、それぞれの役目を黙々とこなしていた。

王都に入るまでには、まだ半月近くかかるのだが、旅の終わりを意識して、皆の胸には一抹の寂しさが込み上げる。
< 184 / 225 >

この作品をシェア

pagetop