懲らしめて差し上げますっ!~じゃじゃ馬王女の下克上日記~
すると、しんみりしてしまった空気に気づいたのか、ラナが景色を眺めるのをやめて、笑顔で振り向いた。

「ねぇ、カイザー!」と努めて元気な声で呼びかける。


彼は細い丸太を骨組みにして、上に布を被せ、寝床となるテントをグリゴリーと共にこしらえていた。

その手を止めて、夕日を浴びるラナを眩しげに見遣れば、彼女がおどけた声で言う。


「あの小島まで泳がない? 水が綺麗で気持ち良さそう。競争しようよ!」

「アホか。真夏でもないのに、風邪引くだけだ。日も暮れる」


呆れ顔で正論を返されても、ラナの笑顔は崩れない。

そう言われると、わかっていたからだろう。

「冗談だよ。ノリが悪いな」と文句を言った彼女は、「じゃあ……」と茶目っ気のある瞳を輝かせて要求を変えた。


「後でお湯を沸かしてくれる? 髪と体を洗いたいわ。カイザー、私の沐浴、手伝ってね」


すると彼の手から、テントの設営に使う麻紐が滑り落ちた。


「ば、馬鹿。湯は沸かしてやるが、その後を男に頼むな。侍女がいるだろ!」


たちまち顔を赤くし、動揺のあまりに語気を強めた彼に、イワノフたち三人のこらえきれない笑い声が響く。
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