懲らしめて差し上げますっ!~じゃじゃ馬王女の下克上日記~
布製の柔らかで可愛らしいデザインのルームシューズを履いた彼女は、気分転換に月を愛でようかと、カーテンとガラス戸を開け、バルコニーに出た。

初夏の夜風がブロンドの髪を揺らし、半袖のネグリジェから出ている白い肌を撫でる。

肌寒いと感じたが、ガウンを取りに引き返すほどではなく、ラナはそのままの姿で前に進んだ。


半円型のバルコニーは石造りで、優美なデザインの彫刻が施された手すりは、白大理石でできている。

触り心地の滑らかな手すりに両手をかけて、空を仰げば、西に傾き始めた満月が、雲のない紺碧の夜空にポッカリと明るく浮かんでいた。


(こんなに明るければ、脱走しやすそうね。もう大人だから、勝手に城壁の向こうに遊びに行くわけにはいかないけれど……)


目の前は広大な前庭が広がり、左手には迎賓館と蓮の花が咲く池がある。

この大邸宅の右手側は城壁までの敷地が広く取られ、馬場や兵舎、闘技場に軍の詰所が建ち並んでいた。

裏は、使用人宿舎と小さな森がある。


ラナが満月をぼんやりと眺めていたら、突然、下から「おい」と声をかけられた。

手すりに上体を預けて下を覗き込んだ彼女は、騎士服姿で帯剣したカイザーと目が合う。


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