懲らしめて差し上げますっ!~じゃじゃ馬王女の下克上日記~
「どうした?」とイワノフに問いかけられたグリゴリーは、「あの、もしもの話ですが……」と真顔で相談する。


ラナにキスしたことがきっかけで、カイザーの恋心のストッパーが外れているとしたら、今宵、我慢できずに夜這いを仕掛けるかもしれない。

そうなったら自分はカイザーを止めるべきか、それとも見て見ぬ振りをするべきか、とグリゴリーは真剣に迷っていた。


カイザーの忠実な部下である身と、王女を守る従騎士という役職。

それと、長らく旅を共にして、ふたりの恋路を温かく見守ってきた仲間としての立場から、もしもの場合に、自分がどうすればいいのか、わからなくなったようである。


あらぬ心配をして、真面目に悩むグリゴリー。

イワノフとオルガが思わず吹き出したら、その声が波打ち際のふたりまで届いてしまった。


「コラー!」

暗がりの中で、盗み聞きを怒るラナの声がしたと思ったら、玉石を踏んでこちらに駆けてくる、ふたり分の足音が響いた。

慌てたイワノフたちは、焚き火の方へと走って逃げる。


この調子で、旅はもうしばらく続くだろう。

五人の賑やかな夜に、誰かの願いをのせた星がひとつ、湖に吸い込まれるように流れて落ちた。

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