すれ違いの純情【短編】
波乱
それから数日が過ぎた。
日々は変わらず、単調に同じ事を繰り返している。
ただ永治に対しての問題は、未だ放置したまま。
*
「お疲れ様でーす…」
バイトが終わり、着替えを済ませる。
店を出ようとした所でヒョイと壁の時計に目をやった。
午後8時過ぎ。
今日はシフトの都合で、いつもより遅い上がりだった。
「あ、筑波さん」
裏口の扉を開ける間際、背後から呼び止められた。
「…浅倉さん」
お疲れ様です、と会釈する。
「大丈夫? 何か最近ずっと元気ないみたいだけど」
「あ。あはは~…まぁ、大丈夫、ですよ」
あたしは苦笑いを浮かべた。
「俺、今日はもう上がりだから。良かったら車で送ってくよ?」
「え…?」
「ほら、もう外暗いし。女の子の一人歩きは危ないでしょ?」
さすがは自称紳士マン。
あたしは頬を緩め、じゃあお願いします、と微笑んだ。
元気のないあたしを見かねて声を掛けてくれる。
やっぱりこの人は優しい人だ。
彼氏にするなら…。
浅倉さんみたいに年上で、落ち着いた人がいい。
素直にそう思ってしまった。