すれ違いの純情【短編】
「じゃあ。お休みなさい」


「お休み…」


小さく会釈をすると、浅倉さんは片手を挙げ、車を出した。


去りゆくテールランプを見送り、幾度目かの溜め息をもらす。


「大人だなぁ…」


変に達観してるし。


3つ年上の浅倉さんに対してこんな風に思うのだから。


永治が4つ上のあたしに対して抱くのは、本当に恋愛感情なんだろうか…?


何気なくそんな事を思い、きびすを返した。





そこでビクン、と足が止まる。




暗がりでも分かる。




街灯の下に佇む彼の姿。




いつからいたの…?





疑問は頭の中でパチンとはじけた。


「あ…」


穏やかだった波が、突如現れる嵐に見まわれたかのよう。


ドクン、ドクン、と急に心拍が上昇する。


平静さを失う。


永治はゆっくりとこちらへ歩いてきた。


真顔でジッと見つめる、黒い瞳に捕らえられ、動けない。



「今の誰…?」



「え…」



淡々とした口調に不安を覚えた。



「もしかして…ヒナの彼氏?」


「…っ」


「デートの…。帰り?」


やだ…。


永治のこんな真剣な顔。初めて…。



その視線に耐えられず、あたしは無言で俯いた。
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