すれ違いの純情【短編】
「デート、だけど…?」


「え…」


途端に、目の前が真っ暗になった。


「今から映画見るんだよ、な?」


そして彼女へ笑いかける。


あたしには向けられない、柔らかな笑顔で。


「ちょ…、折部くん。なに言って」


隣りの彼女は困ったように顔をしかめた。


が、今のあたしにはさほど気にならなかった。


目の前で、優しい笑みを浮かべる永治を。


あたしは知らない。



そう思ったら急に泣きたくなった。


大声を上げて泣き出したい衝動に駆られ、それに耐えられずにきびすを返す。


「あ、おいっ! ヒナ!!」


背中越しに永治の慌てる声が響いた。


構わずにヒールを鳴らし、あたしは住宅街を駆けた。


吹き抜ける湿っぽい風が、時折優しく頬を撫でる。


慰められているようなそんな感覚に、ジンと目頭が熱くなった。


視界が歪み、足がもつれそうになった時。


「待てよ、ヒナ!」


グイッと腕を掴まれた。
< 19 / 22 >

この作品をシェア

pagetop