すれ違いの純情【短編】
頬を伝う涙にはとうに気付いていたが、あたしは正面から永治を見つめた。


「え…っ、なん…」


意外にも、彼は驚き、動揺していた。


「映画…行くんじゃなかったの?」


あたしの言葉に、永治は顔をしかめた。


うるせーな、と視線を外し、舌打ちをついている。


その仕草についカッとなった。


「…んでよっ」


「え?」


「何で笑わないの…!?」


「はぁ!?」


あたしは両手を伸ばし、永治の頬に触った。


「笑ってよっ! あたしの前でもさっきみたいに笑ってよ!!」


「やめ…っ」


無理やり手で彼の頬を釣り上げ、笑わせようと躍起になるが。


両手首を掴まれ、それすらも叶わない。


「なに、ワケ分かんねーこと言って…」


「もうあたしの事なんか、どーでもいいんでしょ!?」


人目もはばからず、あたしはそう叫んでいた。


膝から崩れ落ち、子供のようにわんわんと泣きじゃくる。


後から後からこみ上げてくる涙は、干上がった地面に幾つもの丸いシミを作った。


…永治はきっと困ってる。


きっと呆れてる。


分かっていても止められなかった。





だけどその時。




あたしは心地よい温もりを感じた。

< 20 / 22 >

この作品をシェア

pagetop