すれ違いの純情【短編】
*
あたしの目の前で、永治はカチャンと箸を置いた。
「お前もう女やめれば?」
な…っ。
彼の隣りでは、秋人が腹を抱えて爆笑している。
「何このどす黒いの、何この味付け。しょっぺ~っ」
「う、うるさいわねーっ! 嫌なら食べないでよっ」
多大な恥ずかしさに耳まで熱くなる。
「オマケに玉子焼き、カラ入り~。超ウケる~」
秋人が更にダメ出しする。
「もう、秋人までっ!」
ダイニングテーブルを囲み、3人で夕食をとる異様な光景。
あたしはふてくされつつも、せっせと箸を動かした。
「ある意味すげーよな、どうやったらこーなるんだろ」
隣りの秋人へ無邪気に言う彼の笑顔。
その表情にズキンと胸が痛んだ。
…なによ。
何なのよ、その笑顔は。
あたしの前では…そんな顔しないくせに。
再び起こる正体不明の苛立ち。
気持ちがモヤモヤして落ち着かない。
あたしは永治から目を逸らし、唇を噛んだ。