こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
「ああ。それか」

私の見ている方向に気がついた最上さんが言った。

「今朝、ちょっと人の手を借りてお前のアパートから必要最低限の物を全部回収してきた」

「ちょ、そんな勝手なこと――」

ベッドの傍らにある小さなテーブルにトレーを置くと、最上さんが少し眉を寄せる。

「お前。あの大家から出て行けって言われたんだろ?」

「そ、それは……」

「お前が鍵をかけ忘れたせいで空巣に入られたと、責任転嫁もいいところだ」

最上さん、もしかして大家さんに会ったの? なんのために?

そう尋ねたいけれど、眩暈がして今の私には言葉を考える余裕もない。

「だいたい、住人が安心して住めるように努めるのは大家の義務だろ。防犯カメラもつけないような怠慢大家のアパートなんて、こっちから願い下げだ」

まるで自分のことのように怒っている最上さんを見ていると、私の気持ちをわかってくれているいような気がしてしまう。

「来月分の家賃払ってあの部屋を引き渡してきたぞ」

「えっ!」

「家の鍵は後日返却してくれだってさ」

さっきから私は驚いてばかりだ。それに迷惑も……。
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