こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
『最上君がお前の上司なら、もうなにも言うことはないな。今度また三人で食事でもしよう』

「ちょっと! お父さん。私、婚約だなんてまだ認めてないんだから!」

なんだか父は勝手に舞い上がっている。父が喜ぶことは私も嬉しいけれどこればっかりは違う。

『実はな……』

あっはっは。と鷹揚に笑っていると思ったら今度はなにやら言いにくそうに口ごもっている。

『最上君から個人的な資金をうちの会社に融資してもらったんだ。彼は出資でいいと言ってくれたが……おかげでしばらくSAKAIも安定する。といっても一時しのぎだが』

「個人的な資金って、最上さんが?」

経営の傾いた会社を一時しのぎでも立て直すことができるなんて、いったいいくら融資したのだろう。きっととてつもない金額に違いない。

『この話は、凜子にはするなと言われた。肩身の狭い思いをさせたくないと……なぁ、凜子、彼との結婚は本当に嫌か?』

そんなふうに聞くなんてずるい。

今まで優等生でやってきた。父の言うことはなんでも従ってきたけれど、もうそんな自分でいるのが嫌になった。

最上さんといると、心がどんどん裸にされていくような気がして本当の自分を知るのが怖い。
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