こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
風邪はまだ完全に治ったわけではないけれど、もう熱もないし眩暈も治った。木崎課長との噂が蔓延している筵のようなところへ行かなくてはならないと思うと気が重い。

全部自分が悪いんだけどね……。

「小宮さんはよくここに来るんですか?」

モヤモヤした気持ちを払拭すべく、私は別の話題を小宮さんに振った。

「いいえ。頼まれれば来ますけど、滅多にないですね。婚約者なのだから丁重に扱えと言われています」

「え、ちょっと、なんか話が勝手に進んでるんだけど、私はまだその……婚約者になったつもりはなくて……」

語尾がだんだん小さくなっていく。自信のなさの表れだ。始めは子どもみたいにダダをこねて拒絶していたけれど、最上さんみたいな御曹司と婚約だなんて、はっきり言って不釣り合いだ。

「最上は一度決めたことは必ずやり通すし、まぁ、しつこいとも言いますが……彼のこと、信じてあげてください」

「信じてあげてください」その言葉がどうも引っかかって仕方がなかった。信じると言うことは裏切られることもあるということ。身をもって経験した数々の辛い出来事が、いつのまにか分厚い壁を自分の周りに作ってしまった。だから、そう簡単に人を信じるなんてできない。
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