こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
最上さんと私の奇妙な同居生活は始まって数日が経った。

実際、どんな生活かと蓋を開けてみれば、最上さんはいつも私より少し早めに出社して帰宅も遅い。大抵は私が力尽きて先に寝てしまう。だから、すれ違い夫婦みたいな生活だ。
そして今日から新しい職場だ。本社から離れ私はコールセンターの社員として仕事をすることになる。

「悪いな、初日くらいは一緒に出勤してやりたかったが、朝から本社で会議なんだ。先に出るぞ」

ピカピカに磨かれた革靴を履いている最上さんの背中を、一応玄関まで見送る。

「いですよ、子どもじゃないんだし。ひとりで行けます。最初に総務課へ行けばいいんですよね?」

「ああ。そこでまず色々手続きだのしてくれ。お前の担当の課もそこに書いてあるから、書面に書かれていることを理解したら配属の課に向かってくれ」

「わかりま――ッ!?」

いきなり不意を突かれて軽く唇にキスされると、最上さんはニヤリとした。

「な、なにするんですか!」

「なにって、いってきますのキスだろ? じゃあな。顔が真っ赤だぞ」

最上さんは言うだけ言って出て行った。

なにが顔が真っ赤よ、赤くなってなんかないし!

玄関にひとり残されて両頬に手をあてがうと確かな熱を感じた。それは、最上さんの言う通り、自分の顔が真っ赤に染まっているということを認めざる得ない証拠だった。
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