こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
ふと声をかけられて我に返ると、黒縁の眼鏡をかけて長い髪をひとつに後ろでまとめただけの、一見地味目……いや、おとなし目な女性がもじもじしながら立っていた。

「私、高村千沙っていいます。最上さんから酒井さんが来たらセンター内を案内するようにって言われてて……」

人見知りをするのか、高村さんは私と目を合わせることなくどことなく恥ずかしそうにしている。

「ええ。まだ初日でお手洗いすらどこにあるかもわからなくて、色々教えていただけたら助かります」

ニコリとすると、高村さんは自分の役目を認めてもらえたと言わんばかりの笑顔になり、嬉しげにふふっと笑った。

高村さんは私と所属が同じで、他社メーカーのコールセンターでオペレーターの経験があるらしい。聞くと二十四歳で、年下だけど私の先輩になる人だ。カラーの入っていないナチュラルな黒髪に白い肌は対象的で、身体の線も細くて物静かな女性だった。いかにも会話が苦手といった雰囲気だけど、なんと彼女はテクニカルサポート部のSV(スーパーバイザー)だったのだ。SVとはオペレーターとそのチームの管理、リーダーとオペレーターの指導と育成、マネージャーの補佐等、コールセンターにはなくてはならないデキる存在だ。
< 120 / 317 >

この作品をシェア

pagetop