こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
部屋には一切の灯りはなく、窓から入ってくる満月の光がうっすらとあたりを照らしていた。俺は横たわる彼女の頭の傍らに腰を下ろし、無防備なその頬に触れた。

柔らかできめ細かい、透き通るような肌。この頬が朱色に染まる度に、妙な高揚感を覚えてならない。そんなこと彼女は知る由もないが。

先ほどの悪夢の最後の言葉がいまだに頭からこびりついて離れない。はぁと重くため息づいてふと、彼女に言った自分の言葉を思い出した。

――お前は、人を信じることから逃げている。

そんなセリフ、よく言えたものだ。逃げているのは自分だって同じだというのに……。
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