こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
以前なら絶対に嫌だと即答していたのに、今、父らかそう言われてなぜか言葉に詰まってしまった。

「……わからない」

そんな曖昧な返事に父が電話の向こうで小さくため息をついた。

『買収の件だが……一応、ほかに手立てはないかと経営コンサルタントにも話を振ってあるんだ』

「え? 経営コンサルタント?」

『ああ。凛子の気持ちがまだ固まっていないまま、お父さんの都合で事を進めてもいいものかと考えたんだ。だからコンサルタントに相談したのは最後の足掻きみたいなもんだな。お父さんも頑張るよ』

力なく笑う父に胸が締め付けられた。表情はわからないけれど、会話の節々に疲労の色が滲んでいるように思えてならない。

私は友好買収のために売られたわけじゃない。父は私のことをちゃんと考えてくれていた。
父の会社のために、最上さんと婚約することに私が「はい」とふたつ返事で了承すればなにもかもうまくいくことなのはわかっている。けれど、気持ちが追い付いていかないもどかしさに申し訳なさがこみ上げる。
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