こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
そういえば名前も聞いていなかった。顔も知らない、名前もわからない相手とこれから会うと思うと緊張してくる。

父の横に座り、注文したオレンジジュースが早々に運ばれてくるとひとくち喉を潤した。

「お父さん。相手の人、何してる人なの?」

温かなおしぼりで顔を拭いている父に尋ねると、「それは、本人に直接聞きなさい」と煮え切らない返事が返ってきた。
別に職業くらい教えてくれてもいいものの、なんだか違和感を覚える。すると。

「失礼します。もうひと方のお客様がお見えになりました」

来た!!

格子戸の向こうから声がして、思わずシャキッと背筋を伸ばす。

「すみません。お待たせいたしました」

ゆっくりと戸が開かれ、そこに立っていた人物に……私は思わず目を見開いて硬直した。

え? 嘘、だよね?

「ああ。最上君、忙しいところすまないね。娘の凛子だ」

なにも知らない父にそう紹介されても、開いた「あ」の口がふさがらないまま言葉を失って呆然としてしまう。

な、なんで!? この人は……。

「あなたが“酒井凛子”さんですね」
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