こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
そう言って彼は私の向かいに座ると、じっと私を見つめた。いったいなにを考えているかわからないその目に「また会ったな」と言われているようで居た堪れない。

“会わせたい人”とはいったいどんな人なのだろうと、心なしか緊張していた自分が馬鹿みたいだ。蓋を開けてみれば彼は先日、六本木のBarシュエスコで偶然に出会った、失礼で不遜でそれでいて不思議と目を引かれたあの男だったのだ。いつぞやの夜はニコリともしなかったくせに、私の目の前に現れた彼は紳士的で、まるで別人のようだった。初めて会った時と同じようにスーツをパリッと着こなして、結んだネクタイは少しも歪みがない。

「凛子。ぼーっとしてないで挨拶くらいしなさい」

父にこそっと窘められて、ようやく我に返る。動揺を隠しきれていない私を、滑稽といわんばかりに彼はクスッと小さく笑った。

「酒井凛子です」

私はあの日、この人に嘘をついた。その気まずさも相まって、まともに彼の目を見ることができない。

「初めまして。最上貴斗と申します」

慣れた手つきでジャケットの内ポケットからケースを取り出すと、一枚の名刺を私に手渡した。

「えっ!?」

どうせ二度と会わないと思っていた人とまた再会したことですら驚きなのに、その名刺に書かれた会社名を見て、私はまたまた絶句してしまった。

――株式会社 ソニリア 商品通販部コールセンター長 最上貴斗

ち、ちょっと待って、ソニリア……って、うちの会社!?
しかも最上……って、まさか、だよね?
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