こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
苦し気な声でぽつりと私の耳元で呟く。そして一層私を抱きしめる腕に力がこもった。

「ごめん、ってなにがですか?」

たぶん、この「ごめん」はあの日の夜のことだろう。けれど、私は敢えて気にしていない素振りをした。

「お前に乱暴したこと、ちゃんと改めて謝ろうと思っていた。すまない。傷つけるようなことをして」

仕事が忙しくて、時間がなくて、という言い訳は一切ない。彼らしい謝罪だと思った。私はそっと腕を解いて最上さんに向き直るとその表情を見上げた。

「最上さんが傷つけるのは私だけでいいんです。ほかの誰でもない。最上さんになら、私耐えられます」

彼に別の女性の影がちらついたって、私の気持ちは変わらない。だから、エントランスで見たあの女性のことを尋ねるのをやめた。彼を信じると、そう決めたのだから。
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