こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
「もしもし?」

『社長の娘さん、酒井凛子さんですか?』

その声音は柔らかだったけれど、口調が急いている。

「はい。そうですけれど……」

『社長が……お父様が倒れられて、今、病院に救急搬送されました』

え……? お父さんが?

スマホを持つ手が徐々に震えだし、血の気が引いていくのがわかった。そんな私の様子に、最上さんも異変に気づいてキッチンに向かう足を止めた。

「倒れたって……どういう――」

『とにかく今から病院に来てください』

ここで詳しい説明をしている時間などないと言わんばかりに、中西専務は病院の名前を告げると早々に電話を切った。

「どうした?」

通話の切れたスマホをいまだに耳にあてがったまま放心していると、最上さんからの声かけで我に返る。
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