こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
時刻は二十二時。

窓ひとつない小さな部屋に残され、私は両手を広げて勢いよく枕に頭を預けると深いため息をついた。彼の残した煙草の香りがふわりと鼻を掠める。

大手食品メーカー“ソニリア”の企画部に勤務し始めて二年目。

ソニリアは麻布に本社を構える食品、飲料に属する企業で製造加工並びに販売などを行っていて、現在は海外にも事業所を置き、積極的にグローバル展開をしている。社員は総勢三千人ほどで、私はその本社の商品企画部に所属している。

木崎課長は大人の渋さを匂わせる四十五歳の妻子持ち。私の直属の上司で高身長、高学歴、高収入という昔でいう三高といわれる部類の人だ。優しくて面倒見が良くて、当時新入社員だった私の目にキラキラと輝いて見えた。

学生時代に大失恋をしたトラウマを引きずりながらも、同じ企画部でプロジェクトを共にしているうち、気がついたら彼に惹かれていた。そして、その左薬指に光る指輪の意味をわかっていて告白した。

今思うと、それは自分の気持ちに整理をつけたいという自分勝手な行動だった。誰にも言えない愚行だ。失恋の傷が癒えていない今なら「ごめん」の返事も平気だ、どうせ振られるだけだから。と思っていたのに、あろうことか彼は私の気持ちを受け入れたのだ。ただし、“いかなるときも家族第一優先”という条件付きで。
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