こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
後ろから聞こえたその低い声にビクリと肩が跳ねる。声の主はわかっていた。私は振り向くこともせずにバクバクと心臓を鳴らして足を止めた。徐々に足音が近づいて、俯く私の目の前に彼が立つと、出会った時にも感じたムスクの香りが鼻を掠めた。そして視線の先には綺麗に磨かれた黒い革靴。

「こっち向けよ、館野麻衣子」

うっ、もしかして私が嘘ついたこと、根に持ってる?

視線を外しながらゆっくり顔だけを少し上げると、いきなり顎を捕られて無理やり正面を向かされた。

「なっ……」

「お前、俺に嘘をついたな?」

身長の高い最上さんを見上げると、目が合う。けれど、その視線は怒っているわけでもなくむしろ挑発的だ。そして、すっと目を細められるとドクンと胸が鳴った。

「離してください」

身じろぎすると、意外にも簡単に捕らえられた顎を解放される。

「別に。もう会わないって思ったし、そんな人に本名言う必要ないですよね? でも、嘘をついたことは謝ります」

先ほどの穏やかで紳士的な表情とは違い、今はあの日の夜と同じ、不敵な顔つきをしている。
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