こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
“裏表のある人には警戒すべし”と、どこかの本で読んだことがある。私にはまさにこの最上貴斗こそが、そういった類の人種に見えてならなかった。

「ずいぶん猫かぶりが上手なんですね。社長の息子だったらもう少し上品に振舞ったらどうですか?」

嫌味たっぷりに言ってやる。今はこの程度しか抵抗できない。

「処世術って言葉を知ってるか? 社長の息子だからって、いつまでも馬鹿みたいに丁寧なことしてられるか。それに、俺は初めて会った時からお前が館野麻衣子ではなく、酒井凜子だって知ってたけどな。だから騙されたとは思っていない」

「……どういうことですか?」

「まぁ、色々あって、お前の親父さんから婚約者としてお前の顔写真を渡されていた。あのBar出会ったのはまさかの偶然だったけどな」

え……? ちょっと待って、こ、こんやくしゃ?

それに写真だけでも私の顔を知っていたのなら、出会った時にそれなりの反応があってもよさそうなものなのに、そんな素振りを一切見せずにひっそりと様子を窺っていたのだ。

なんていやらしいやつ……。
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