こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
「父には会うだけって言ってあったんです。いきなり婚約者とか言われても困ります」

毅然と言うと、最上さんはニッと笑った。

「ほかに男がいるんだろ? 悪いが俺は人のものだろうが気に入ったものは必ず手に入れるタイプなんだ。気の強い女は嫌いじゃない……が、嘘だけは無しだ」

語尾を強めてキリッとした口調に変わる。

態度や口調に裏表があるのは嘘ではないのか、と突っ込みたくなったけれどその前にずいっと、歩み寄られて私は反射的に後ずさった。そして、背中に冷たい壁が押し付けられると、もうこれ以上さがることはできないと悟る。それでも彼は私にどんどん近づいてきて、高い身長を屈めて握った拳を壁に押し付けると、寸でのところで唇が耳朶に触れる距離で囁いた。

「お前は親父さんから俺にその身を売られたんだ」

「……売られた?」

穏やかでないその単語に私は眉を寄せた。

「どうやら、お前はこの縁談の本当の意味を理解していないみたいだな。お前の親父さんの会社、あまり大きな声では言えないが……かなりの経営不振でこのままいけば、後数年もつかどうかの瀬戸際だ。それも多額の負債を抱えてな」

「え……?」
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