こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
そんな話は聞いたことがない。どうせこの男の嘘に決まっている。疑ってかかる私を、最上さんはふんと笑って話を続けた。

「お前の親父さんは、今の会社をソニリアに買収されることを望んでいる。経営資源の共有化を推進することで収益性の改善を図ろうって魂胆だ」

ま、まさか……。

そこまで経営が傾いていたなんて知らなかった。言われてみれば、久しぶりに今日会った父は、心なしかやつれているようにも見えた。私に心配をかけたくなくて、ずっとひとりで奔走していたのかと思うと胸が締めつけられた。

「俺の父とお前の親父さんは、学生時代からのよしみらしい。父は友人の危機を救うべく、友好的買収を前向きに検討中だ。お前の親父さんは社長から退くことになるが、株式の過半数を獲得する形で会社は据え置くことができる。これで社員全員が路頭に迷うことはない」

「その代わりに婚約者として私が差し出されたわけですか?」

彼の視線に負けじと私も睨むように見て迎え撃つ。

「渡された写真を見ただけじゃ興味はそそられなかったな。なんせ、お前よりも器量のいい女はたくさん見てきた。けど……」

耳元で囁く声に熱がこもる。吐息がかすめるたびにビリビリと身体が痺れてしょうがなかった。
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