こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
「中根本部長、もうこれ以上は……」

角を曲がったところから聞き覚えのある男の声がして足を止める。そして俺は鳴りを潜めてそっと角の向こうをのぞいた。話しているのはこちらに正面を向いて俯く木崎と恰幅のいい後ろ姿の、中根本部長だ。

中根は現在、取締役を兼ねた本部長の役職に就いていて、上層部のひとりだ。この会社の創立者である祖父の代からこの会社にいる六十代の古株だが、俺はこの中根という男がどうも気に入らなかった。昔から俺を陰で親の七光り呼ばわりし、先代だった祖父に心酔していた中根は現在の社長である父とそりが合わず、いつか欺こうとしているんじゃないかと睨んでいた。

「木崎君、君のしていることは正しいことなんだ。社長は息子にそそのかされて多額の債務を負ったSAKAIなんかを買収しようとしている。我々はそれを阻止せねばならん」

な、なんだって?
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