こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
木崎は酒井がSAKAIの娘であることを知っていて、離婚や昇進試験失敗の腹いせにSAKAIに汚い手を使って圧力をかけたものだと思っていた。しかし、ことの真相はそんな簡単なことではなく、SAKAIをつぶしたいという利害一致で木崎は上層部の小間使いになっていたのだ。

おそらく、上層部の人間が小細工をして木崎を使い、SAKAIと契約を切るように他社に促した。それに、中根は“我々”と言った。ということは、ほかにも同じくして反旗を翻している役員がいるということだ。

はぁ。そういうことか、すべては買収に反対している役員が発端だったのか。

木崎の後ろ盾の黒幕は、上層部の連中だった。

虫唾が走るような思いに俺は拳を握って、爪を手のひらに食い込ませた。

「とにかく、今月末の金曜日だ。極秘で専務と常務とで話し合いをする。場所は“鳳凰亭”に二十時。この件に関しては君も一枚噛んでいるんだから顔を出しなさい」

中根はそう言って俺の立っている廊下とは逆の方向へ木崎と共に消えて行った。

鳳凰亭……か、いったい何を企んでいるんだ。

鳳凰亭は銀座にある老舗の高級料亭旅館だ。政界から芸能人までがお忍びで集う、あまり社内で話せないことを気兼ねなく語り合うには都合のいい場所として知られている。

なにか不穏なものを感じる。気を取り直し、俺はその足で社長室へ向かった。
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