こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
禁断の関係の幕開けはあっけなかった。

「妻も子どももいるが、君のことはまた別の意味で特別と思いたい」

「君の心を満たせる存在でありたい」

そんな甘い言葉を囁かれる度、募っていくのは愛情ではなく虚無感とやるせなさだった。けれど、彼に抱かれているときだけは満たされていた。彼はふたりで会う時だけ「酒井」ではなく「凛子」と名前で甘く呼ぶ。

仕事とプライベートの切り替えがきっちりした人で、仕事でミスをすれば厳しく注意される。そんな仕事とプライベートとのギャップにしばらく酔っていたけれど、月日が経つにつれ、木崎課長へ想いは一時の感情だったのではないか、“憧れ”と“恋愛”をはき違えていたのではないか、と自分自身と向き合い疑問を持つようになった。

そして関係を続けていくうちに気がついたのだ。この関係はいつまでも埋めることのできない失恋の風穴を満たすだけのもので、それ以外のなにものでもない。だから切ないとか辛いとかそういった感情を抱かないのだ、と。
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