こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
昨夜は泥酔していて、部屋を見渡す余裕なんてなかった。改めて見てみると、間取りは3LDKで独り暮らしにしてはいささか広い気もするけれど、最低限の電化製品に家具、お酒が好きなのか棚にはいくつものリキュールとウィスキーなどがずらっと並んでいた。
所々に観葉植物が置いてあって、意外な趣味も窺える。けれど、綺麗すぎる部屋は生活感があまり感じられなかった。

「ごちそうさまでした。美味しかったです」

あっという間に平らげ、落ち着いた身体を休めていると、じっと向かいに座る最上さんが頬杖をついて私を見つめているのに気づく。

「なんですか?」

「お前、ここで一緒に俺と暮らせよ」

「……は?」

な、なんだって? 一緒に? 暮らす?

頭に浮かんだクエスチョンマークに目を丸くさせていると。

「そのほうが職場も近いだろ? お前は俺の婚約者なんだ、遠慮するなよ」

「いやいやいや、遠慮します!」

冗談じゃない。危うく美味しい朝食で誤魔化されるところだった。この男は、婚約しなければ父の会社を潰すと脅しにかかってくるような男なんだった。

涼しげな顔でコーヒーに口をつける最上さんに、私はぶんぶんと首を全力で振った。

「まぁ、俺はこう見えても気の長い男だ。そのうちお前もわかる」

ニヤリと笑うと背筋がゾクッとしなる。やっぱりこの男は危険だ。そう思うと、こんな素敵なマンションもまるで悪魔の住む城に見えてしまうのだった。
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