こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
一瞬、最上さんが道を間違えたのかと思った。けれど、ナビの位置は確かにうちの前だ。
アパートの前に人だかりができていて、数台のパトカーの赤色灯が回っている。その異様な光景に私は唖然としてしまった。

な、なに? なにがあったの?

進入禁止のバリケードテープが行く手を阻み、それ以上進むことができないとわかるとお礼も言う余裕もなく、私は最上さんが呼び留める声も聞かずに慌てて車から降りた。

人の群れをかき分けていくと、顔面蒼白の大家さんが警察の人と話していた。

「酒井さん! ああ、大変なことになっちゃったよ」

私に気がつくと、大家さんが手を震わせて私に寄ってきた。大家さんは小柄なおばあさんで、怯えたような身体はより小さく見えた。

「酒井さんの部屋に泥棒が入ったみたいなんだよぅ、ガラス窓が割れる音がしたからなんだろうと思って……今ようやく警察の人が来たんだけ――あっ!」

大家さんの言葉を最後まで聞くことなく、私は短く息を呑むと自分の部屋に猛ダッシュした。足がもつれて階段で転ぶ。脛をおもいきりぶつけたけれど、麻痺したように痛みを感じない。
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