こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
彼はぶっきらぼうにそう言い放った。ニコリともせず、なんだか近寄りがたい雰囲気だ。

「こちらの女性のお客様はいつもそこの席にお座りなんですよ」

カウンターのマスターが歩み寄ってフォローしてくれたけれど彼はただ、ふうんと興味なさげに鼻を鳴らした。

「すみません。私、あっちに座りますね」

「隣、座れば?」

私の言葉を無視して彼が隣のスツールに座るように促してきた。

隣に座ればって言われても……知らない人の隣で飲むなんて、それこそ居心地が悪いよ。

「ここがお前の特等席でも、今夜は俺が先約だ。隣ならいいだろ? この席は俺も気に入ってるんだ」

そういう問題じゃないんだけどな……しかもなんかこの人、感じ悪いし!

早く座れと言わんばかりに顎をしゃくられて、そう思いつつ私は渋々その態度の悪い彼の隣に座る。すると彼から大人っぽいムスクの香りがふわりとした。

「いつも最初になにを飲むんだ?」

「……チャイナブルーですけど」

「じゃあ、彼女にそれを」

注文を受けたマスターが軽く頭を下げてカウンターの奥の棚からライチリキュールを取り出して、カランといい音を立ててグラスに氷を入れ始めた。
< 7 / 317 >

この作品をシェア

pagetop