こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
私は即答した。最上さんは「そう言うだろうと思った」とまた大きく息づいた。

帰る家がなくなったから目の前にいる人に甘えるのは簡単だ。けれど、それでは心のよりどころがなくて木崎課長に甘えてしまった愚かな自分と一緒だ。もうそういうことはしたくない。かといって最上さんの言う通り、空き巣に入られた部屋に戻るのは得策ではない気がしてきた。

「駅前にネットカフェがあるんで、そこで今夜は過ごします。それからのことは……自分で考えます。遅くまで付き合わせてすみませんでした」

車を降りようと手をドアに手をかけた時だった。ぐいっと勢いよく腕を引かれて重心が後ろに持っていかれる。

「な、なにするんですか?」

「木崎には甘えられて、俺には甘えられない理由はなんだ?」

すっと細められた瞳に近距離で見つめられて、ごくりと息を呑む。なにもかも一番でないと気がすまない最上さんの目には、嫉妬の色が浮かんでいるように思えた。

「離してください。少しひとりになりたいんです」

そう言って今度こそドアを開くと、掴まれた腕がするっと解かれた。一瞬、ほんの少しだけ寂しさがよぎる。自分で拒絶したというのに――。

そそくさと車から降りた後、なにも考えられない頭で足だけは駅前に向かっていた。最上さんの車は私が道の角を曲がるまでずっと停まっていたままだった。
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