こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
「なんでここに最上さんがいるんですか?」

「お前のアパートの大家、融通効かなそうなばあさんだったもんな。戻って文句のひとつでも言われたんだろ。それで部屋に戻る気がなくなって、ビジネスホテルは金がかかるし……って思ったら、ここに来るような気がした」

最上さんの洞察力と観察眼には百点満点をあげたい。私の行動と心理をすべて見抜いている。あまりにも当たりすぎていてなんだか悔しくなってしまう。

「今日、銀行に行って来たんです。現金は引き出されてませんでした。ご心配をおかけしました。被害届も無事に受理されましたよ」

最初にこのことを報告しようと思ってぽつりと言うと、「そうか」と最上さんはほっとした顔を浮かべた。

「ここにいてもしょうがない。来い」

「え……?」

最上さんは私の腕を掴むと、道路わきに停めてあった彼の車の助手席のドアを開けた。

「ち、ちょっと! 離してください」

「お前に拒否権はない」

そう言われて無理やりシートに押し込まれる。傍から見たら誘拐かなにかと勘違いされるんじゃないかと思ったけれど、人はそれほど周りを見ていないものだ。

あっという間に車が発進すると、私はそのまま最上さんのマンションへ連れて行かれたのだった。

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