こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
「俺のお手製だからな。まずいわけがない」

「自分で作ったんですか?」

最上さんって料理もできるし、意外とこういうことマメなのかな?

「ボロ雑巾が布巾くらいにはなったか? 食品メーカー“SAKAI”の令嬢ともあろうものがさっきのお前、見られたもんじゃなかったぞ」

シャワーを浴びる前、鏡で自分の顔を見てみた。雨で化粧は落ち、目の周りはマスカラが滲んでパンダみたいだった。あんな顔を最上さんの前で晒していたなんて恥ずかしい。
それに、私は最上さんと違って中小企業の社長の娘だ。令嬢なんて器じゃない。それを敢えて令嬢と呼ぶなんて皮肉もいいところだ。

「すっぴんも見られたもんじゃないんですけど」

ツンとしながらソファに座る。

「そうか? いくら化粧して綺麗にしてたって中身は変わらないだろ」

そう言いながら最上さんが私の隣に腰を下ろした。ホットワインのアルコールは低いはずなのに、ほんのり頬に熱を持つ。

「来月から私、最上さんの部下になるんですよね」

センター長なら人事異動の件は知っているはずだ。最上さんは顔色ひとつ変えず「ああ」とそっけなく答えた。
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