真実(まこと)の愛

「足も速いし、球技は得意だよ。
学生時代はサッカー部だったらしいし」

美咲は今さらながらフォローを試みたが、

「でも……まさか、魚住部長が……カナヅチやったやなんて……ぶふっ」

稍はすっかり「笑いのツボ」に入ったようだ。
肩をぷるぷる震わせて笑っている。
いつの間にか、関西弁になっていた。

普段なら、それほど笑えるほどのことではないかもしれないが、いかんせん、かなりの酒量になっている。しかも、プレモルのあとは日本各地の地酒三昧だった。

「あたしは和哉とは逆に火が苦手ですっ!
せやから、うちのキッチンはガスやなくてIHでないとあかんのですっ!
それから、怖うてマッチも擦られへんから、もし一つだけしか無人島に持ち込めへんとしたら、自分の息子やなくてチャッカマンを連れて行くことを、ここに宣言しますっ!」

いきなり、美咲が謎の宣誓をした。
つい先刻(さっき)まで標準語だったのに、関西弁になっている。

すでに北から、青森の田酒・福島の飛露喜・新潟の久保田・石川の天狗舞・埼玉の神亀・三重の而今・奈良の春鹿・高知の司牡丹・山口の獺祭を二合ずつオーダーして「南下」した三人は、差しつ差されつで呑み干していた。

美咲に至っては、最初から日本酒オンリーである。

「さぁ、いよいよ関門海峡を越えて行くえっ!そしたら、九州上陸やーっ!」

稍が高々と拳を突き上げ、美咲が「よっしゃーっ!」と応じる。

この二人がこうなってしまうと、麻琴は生温かく見守ることしかできない。


すると、そのとき……

個室の(ふすま)が突然、すーっと開いた。

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