真実(まこと)の愛

「あっ、智史くん、今日は大和のお守り役、どうもありがとー!」

場の空気をまるっきり無視して、無邪気に美咲が青山に話しかける。

「あ、いや、気にせんといてください。
今は和哉さんが家で大和をみてるんで、おれが車で迎えに来ました」

「あ、ごめんねー。今日は一日、お酒呑まれへんかったねぇ」

それから、まだ少し不機嫌な顔のままの青山が、右手でくしゃっと前髪を搔きあげながら麻琴を見た。それでも、左手ではふらつく稍の腰をがっちりと支えている。

「こういう格好じゃないと、魚住部長の息子がおれだと気づかないんだ」

……美咲さんもやけどな。

という言葉は、心の中に留めておいた。

「渡辺、悪かったな。稍が酔っ払って迷惑かけなかったか?」

麻琴に対しては標準語の「会社仕様」だ。
リムレスの眼鏡こそなかったが、髪を搔きあげられて額が出たその顔はまさしく「青山」だった。

「今夜はややちゃんや美咲さんと一緒に、美味(おい)しいお鍋とお酒をいただいて、とっても楽しかったですよ……青山部長」

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